【活動報告】阪急阪神不動産主催「FUTRFEST 2025」にて茶会企画を担当しました
2025年3月15日(土)、阪急阪神不動産株式会社様により海外デジタルノマド誘致イベント「FUTRFEST 2025」が開催され、当社ジルコヴァパートナーズが茶会の企画・運営を担当いたしました。
企画の概要
本イベント「FUTRFEST 2025」(フューチャーフェスト 2025)は、阪急阪神不動産株式会社様が大阪市北区梅田で運営されるグローバルなコワーキングスペース「FUTRWORKS」(フューチャーワークス)のチームの皆様により開催されました。
本イベント中には様々な文化的な企画がおこなわれた中、当社ジルコヴァパートナーズは茶席を担当させていただきました。
阪急阪神東宝グループ様のイベントということで、創業者であり茶人である小林逸翁(こばやしいつおう。小林一三の雅号。)を象徴する茶室「即庵」を使わせていただきました。即庵は、椅子の茶室で有名な国指定有形文化財であり、椅子などは当時のものがそのまま使われています。
小林逸翁も実際に海外からの来客をこの茶室に招いて茶会を催したと伝え聞いていますので、今回のようなグローバルな方々の参加にはまさにうってつけの環境での茶会となりました。
当日は、世界各地から来日されているデジタルノマドの方々がおよそ20名ほど参加され、言語はすべて英語のみで実施いたしました。
また、企画にあたっては、昨今ビジネスにおいて注目されている「エフェクチュエーション」※という手法を活用しました。
※ 不確実な状況下において、所与の手段から意味のある結果を創造する意思決定の一般理論。
企画の狙い
狙い①茶人・小林逸翁の茶の再現
阪急文化財団様にもご協力いただきながら、できる限り小林逸翁の茶の世界観が伝えられるよう、茶会を設計いたしました。
小林逸翁の世界観を把握するにあたっては、先ず以下のようなブックリストを作成し、企画を進めました。
※「ジルコヴァ図書館」はジルコヴァパートナーズが運営する、ブックリスト共有サイトです。
逸翁の茶の湯について本人により執筆された『新茶道論』(国立国会図書館デジタルコレクション・外部リンク)にまとめられていますが、研究者の齋藤康彦先生による『小林逸翁 一三翁の独創の茶』(宮帯出版社・外部リンク)も非常に参照させていただきました。
また、小林逸翁の文化的側面のみならず事業家・イノベーターとしての側面についても触れるべきと考え、フランス文学者の鹿島茂先生の『小林一三 - 日本が生んだ偉大なる経営イノベーター』(中央公論新社・外部リンク)は特に参照させていただきました。
様々な点で頭を砕きましたが、例をあげますと、茶会の裏方(水屋)でスタッフが茶を点てて客に出すいわゆる「点て出し」形式は取りませんでした。昨今の茶会ではよく見られる点て出しですが、小林逸翁は点て出しをしなかった(好まなかった)と伝えられています。そのため、今回の茶会でも私が一人一人に一服ずつ点てる形を取りました。眼の前で一服ずつ茶が点てられる体験は、お喜びいただけたように思います。
その他にも、「茶会の運営人数は最小限とすべき」といった発言も残っており、本イベントでも最低限のスタッフ人数での運営としました。
狙い②郷土資産と遊休資産の活用と物語化
本イベントでは、阪急阪神東宝グループやその創業者である小林逸翁、逸翁・阪急ゆかりの池田市※1について知る機会を提供することのみならず、阪急阪神東宝グループへの関係者のロイヤリティを高めるべく、日常生活ではなかなか経験できない体験を提供することを念頭に置きました。この時に鍵になるのが、地域の文化、郷土資産や遊休資産を積極的に活用することであると考えました。
具体的には、全国的にも著名な逸翁ゆかりの茶室「即庵」の利用や紹介から始まり、抹茶は地元池田市の三丘園様から、菓子は逸翁ゆかりの福助堂様にご依頼し、茶道具は阪急文化財団逸翁美術館様の企画展「黒い美術(ART)」(外部リンク)に合わせて黒色のお道具を使うなど※2、郷土資産や遊休資産を大いに活用して物語として提供いたしました。
※1 阪急電鉄株式会社様の登記上本店は池田市です。
※2 大樋長左衛門(9代)の黒楽茶碗など。
狙い③エフェクチュエーションによる企画構築
本イベントでは、昨今ビジネスの世界で注目を集めている意思決定理論「エフェクチュエーション」によって、企画を実現いたしました。
エフェクチュエーションにおいては「偶然性をテコとして活用する(レモネードの原則)」「多様なステークホルダーと共創する(クレイジーキルトの原則)」ことを重視しますが、本イベント・茶会自体も偶然や共創の積み重ねにより始まったものでした。
エフェクチュエーションは「今までにない新しいことをしたい」「長期的なことをしたい」という時に有効な一連の経験則であると言われますが、今回のような過去にあまり例のない企画を考えるにあたっては非常に有効であったと感じます。
また、エフェクチュエーションの世界観の一つである「ステークホルダーそれぞれが最大限創造性を発揮できる環境を作る」点も重視し、お客様のみならず、内部の運営スタッフにとっても楽しめる場となるよう、配慮のうえ企画を遂行いたしました。
狙い④英語を使った本格的な茶会
本イベントでは全て英語で進行いたしました。
英語で茶会が催されること自体がおそらく現代日本ではあまり多いことではなく、単なる見学や体験ではなく本格的な茶会を英語でとなると、なおさら機会は少ないと思われます。
しかしながら、茶会の英語そのものについては裏千家を中心に書籍がいくつか出版されており、英語で企画・進行すること自体は難しいことではありません。むしろ難しいのは、異なる文化的バックグラウンドを持って参加される方にとって、いかに本質に迫る体験を提供できるかであろうと考えます。
茶会というものは、本格的な茶会を行うとなると参加する客側にも経験や知見が求められるため、初めてお茶に触れる方向けとなると、どうしても入門的なものにならざるを得ません。
茶会が成立するよう簡単なものとするのか、リスクを取って本格派を追求するのか。このトレードオフには非常に頭を使いましたが、様々な配慮の上でバランスを探り、企画を形にいたしました。おかげさまで心と心の交流ができたように思います。
なお、企画にあたっては、あくまで茶の湯の本筋から外れないよう、裏千家茶道教授の秋山宗加先生にアドバイザーとして関与いただき、細部にも配慮するよう留意いたしました。
本企画を通じて考える今後の可能性
小林逸翁の茶について
今回の茶会を通して、当社としても大変チャレンジングな企画ということもあり、非常に大きな学びやヒントが得られました。
その中で、本企画の大きな柱となった小林逸翁の茶道観について、せっかくの機会ですので少し触れさせていただきたいと思います。
阪急電鉄や阪急百貨店、宝塚歌劇団、東宝など様々な事業を一代で築き上げた、稀代の独創的イノベーター小林逸翁ですが、近現代を代表する茶人の一人でもあり、実際に北摂地方を中心に多くの文化を後世に残しました。茶道ではしばしば見立ての名人とも評されます。(例:エミール・ガレの小壺を茶器として使うなど)
逸翁の独創的な茶道観を象徴する言葉を『新茶道論』(国立国会図書館デジタルコレクション・外部リンク)よりいくつか紹介します。さすが「大衆」や「生活者」といったテーマについて、生涯をかけた取り組んだ経営者であると感じられてなりません。
- 「茶は(略)生活を美化する文化運動である」(「新茶道とは」より)
- 「(お茶の在り方について)其の一は、茶道を国民生活の必需品として普く大衆に同化せしめる事。其の二は、美術、工芸、文化、教養、さういふ芸術的芳醇なる理想的生活の機関として育成し保存する事、である。」(「新茶道読本」より)
- 「(略)取扱上の些々たる技術の説明よりも、四季折々の年中行事は勿論、彼岸にはおはぎを作る、お節句には柏餅、クリスマスには何々といったように、そこにお茶を織り込んで生活様式を工夫し、今我々が、お茶は日常生活以上の贅沢な遊びであるというが如き誤解され易い行為や、観念を捨てて、外国では三時のお茶に紅茶を飲む、夕食後にはコーヒーを飲むと々ような態度で、お茶に親しむ習慣を作ることが必要である。」(「新茶道読本」より)
- 「『簡素即茶道』の精神が新茶道の大方針であらねばならぬ。(中略)私には叉『簡素即茶道』と同時に『芸術即茶道』なる裏表の両面があるという意見がある」(「二種類に大別して:第一種のお茶」より)
- 「お茶を楽しむ人達の心と心の結びつき」(「簡素即茶道、芸術即茶道」より)
- 「お茶は贅沢なものでもなければ、また断じて贅沢に振る舞うべきものでもない。『簡素即茶道』『芸術即茶道』の生活が私達の理想として守られるべきものと信じている」(「簡素即茶道、芸術即茶道」より)
- 「(簡素即茶道という)そういう心持ちによって楽しむことが即ち茶道であり、如何に許される身分であるからといって、我独り贅沢をするという態度では茶人の資格なしと言いたい」(「簡素即茶道、芸術即茶道」より)
日本を代表する文化でありながら、今や非常に敷居の高いものとなった茶の湯ですが、茶の湯の本質を押さえたままに「生活を美化する文化運動」として実践していくには、どのように取り組めばいいか。これからも考え、実践していきたいと思います。
なお、今回の企画に取り組むにあたっては、小林逸翁の眠る池田市の大広寺様へご挨拶に伺い、無事の開催を祈念させていただきました。
引き続き、当社ジルコヴァパートナーズでは、様々な地域・郷土での文化開発や事業開発に取り組んでまいります。
参考:当日写真
参考:関連リンク
大阪・梅田のコワーキングスペース|FUTRWORKS
FUTRFEST 2025
https://futrworks.com/news_en/651/
小林一三記念館 | 阪急文化財団
https://www.hankyu-bunka.or.jp/kinenkan/
茶室について(「即庵」) | 小林一三記念館
https://www.hankyu-bunka.or.jp/kinenkan/tearoom/
逸翁美術館「即庵」文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/183976
黒い美術(ART) | 展覧会 | 逸翁美術館 | 阪急文化財団
https://www.hankyu-bunka.or.jp/itsuo-museum/exhibition/20250118/
銘菓創庵 福助堂
三丘園茶店
協力:裏千家茶道教授秋山宗加・秋山社中